あだしのまゆ村 蒲田幸子さん、蒲田晃一さん 

取材・執筆:野村梨愛留、本多史弥

あだしのまゆ村は嵐電嵐山駅から北西に30分ほど歩いた場所に位置するまゆ人形専門店です。古風な雰囲気が感じられる愛宕街道の奥まった場所で、今は亡き夫で元店主の蒲田哲夫さんとともに開いたこのお店を、店主の蒲田幸子さんと息子の蒲田晃一さんを中心に年中無休で営業しています。まゆ人形だけでなく、繭玉を使ったモビールや手鞠など珍しくてかわいい商品も数多く並んでいます。

—何年ほどこちらのお店で働かれているのですか

蒲田:このお店を開いてから今年で45年になります。私は博多出身ですので、開店当初は京都弁が分からずとても苦労しました。それでも開店してから今まで一度もお店を休んだことはないし、どんなことがあっても年中無休で45年間やってきました。

―接客をする中で一番大切にしていることはありますか

蒲田:お客様に対する気持ちです。親切に接してただ楽しくなってもらうのではなく、お客様は観光で来ているのだから、何か一つでも「今日ここに来て良かった」「こんなところが京都にあったんだ」と思ってほしいんです。そういう気持ちが絶えずあると必ず丁寧な応対ができます。商売で一番大事なのは人。物を売ろうと思ったら、いくら物がよくても人がダメだったら売れないんです。

―まゆ人形とはどういったものでしょうか

蒲田:まゆ人形は絹糸を作るための繭玉からできていて、繭玉に顔を描いたり和紙で着物を着せたりしてそれをボンドでくっつけて作ります。人形に合わせた屏風なども作っています。父の家業は生糸問屋でしたが、時代の流れで着物文化が薄れていくのに伴い生糸関係の事業も廃れていく一方でした。そんな中生糸を使って何か新しいことができないかと考え、父が一から生み出したのがこのまゆ人形です。まゆ人形に至る前に、養蚕業の盛んな長野県に足を運び、繭玉で遊び道具を作る様子を目にしました。その後、繭玉を活かした京都らしい土産物にするために改良を重ね、和紙などを組み合わせて作るまゆ人形が完成しました。他の地域とは違って雅な雰囲気を楽しんで頂けると思います。

―右京区や右京区民にとってこのお店はどのような役割を担っていると思いますか

蒲田:やはり他にはないものを売っているお店だということです。最初に繭玉でモビールを作ったのは父でした。惜しくも亡くなってしまいましたが、生前は毎年のように新作を作っていました。どこにでもあるような店ではないので、特徴ある店として右京区に貢献していると思います。

―蒲田さんにとって、国内外の方に知ってほしい右京区の魅力は何だと思いますか

蒲田:この店のある嵯峨野エリアでいうと、愛宕念仏寺には必ず行ってほしいです。京都は応仁の乱によって焼け野原になりましたが、その時に残った物が本堂に保存されています。本堂自体は、鎌倉中期に建てられたもので、当時のまま残されています。京都は古都なので、そんなものいくらでもあると思うかもしれませんが、応仁の乱の被害はひどくて、かなりのお寺が焼けてしまったので今でも残っている物って少ないんです。創建自体は古くても、当時の建物が残っているというのはとても珍しいので、ぜひ見てみてください。

―最後に読者へメッセージをよろしくお願いします

蒲田:このお店ももちろんですが、このお店のある愛宕街道も是非一度歩いてみてほしいです。嵯峨野・嵐山は渡月橋や天龍寺がある嵐山、大覚寺を中心とする北嵯峨、そしてこのお店のあたりの奥嵯峨の3つのエリアに分かれています。嵐山ばかりに客足が一極集中していますが、奥嵯峨と北嵯峨にもたくさん観光資源はありますし、日本の古風な雰囲気を感じられますので、一度足を伸ばしてみてほしいです。

執筆者コメント

今回初めて奥嵯峨に行きましたが、日本の古風な雰囲気が残ったとてもいい場所で、嵐山だけが注目されるのはとてももったいないなと感じました。あだしのまゆ村の皆さんも快くインタビューを受けてくださり、会話の中からまゆ人形だけでなく、嵯峨野・嵐山への愛も伝わってきました。このインタビューを通して、お店だけでなく周辺地域の良さも感じることができたので、次は北嵯峨にも足を運んでようと思います。

(野村梨愛留)

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